「溶接を覚えるには10年かかる」という言葉は、これまで多くの溶接事業所で言われてきた定説だ。この定説はあながち間違いではなく、例えば新人が、厚板に美しい溶接ビードを引けるようになるには数年かかる場合が多く、その他の工程と連動しながら溶接構造物を手掛けられるようになるには、さらに長い期間を要する。そんな中、企業で実績を積んできた多くの溶接士をごぼう抜きにして、嬉野高校(佐賀県嬉野市)の当時2年生だった溶接女子が「第3回佐賀県女子溶接技術競技会(佐賀県溶接協会主催)」を制したことが大きな話題を呼んでいる。今話題の溶接女子、嬉野高校機械科のたけどみさんを取材した。

溶接が好きだと言うと驚かれることが多い。中学生の頃までは、特別好きなことがあったわけではないため、おしゃべりして、勉強して、たまに好きなアイドルが映ればテレビにくぎ付けになるという、一般的な女子中学生だったからだ。

大きな理由はないが、たまたま動画で観た溶接作業の青いアーク光がピンときて、溶接教育が充実していると聞いた嬉野高校を受験した。

嬉野高校は1学年約130人で、そのうち機械科の生徒は40人程度。授業で溶接を学ぶことはできるが、1年生の時にガス溶接を年間15時間、2年生の時に被覆アーク溶接を20時間程度とあまり多くの時間はかけられない。そこで、溶接を学ぶことができると聞いていた機械研究部に入部し、週5日2時間程度の部活動で、ほぼ全ての時間を溶接に費やすことにした。

溶接の魅力は遮光面で限られた視界で、溶融プールを作り、ビードを引いていく工程を、遮光面を取るまで確認できないところだ。体感的には把握できても、実物を見るまで仕上がりがわからないため、一回ずつ、反省と学ぶ部分が出てくる。競技会には縦向き溶接の工程があるため、溶融プールを作りながらも、溶けた鋼が流れ落ちないうちに正確にビードを引く練習を繰り返した。本番は「緊張しないようにゆっくりと」を心がけて作業に臨んだ。

結果的に、好きなことで優勝できたことはうれしい。将来は溶接士になりたいと思っていたため、メディアの取材などを受ける中で、溶接事業所からスカウトされるようになったのも有難いと思っている。

4月からは3年生になったため、よりじっくりと溶接と向き合い、どのような溶接企業があるのかを知っていく時間にあてようと思っている。

また、今回優勝できたのは機械研究部で溶接を教えてくれた先生や、新品の練習材を優先して使わせてくれた仲間のおかげだ。高校の練習材は限られているため、全員が新品の練習材を使えるわけではなく、競技会に出場することを理由に優先的に練習材を使わせてもらえたことで覚えた勘所も少なくない。

取材などを受けることが増え、好きなことや将来の夢などは「無理に設定するものではなく、何となく人より多く時間を費やしたものが形になるのだ」と思うようになった。私の場合は、それが溶接で、溶接は繰り返し練習して課題を見つけて対応していく工程でうまくなる技能だ。

溶接は日々を充実させてくれた。溶接する私を応援してくれた周りの人に恩返しできるように、将来は溶接士としてものづくりを支え、活躍していきたい。


たけどみさんの溶接風景