宮地エンジニアリング千葉工場(千葉県市原市)溶接班に在籍するいとうさんは入社8年目で、鋼桁の製作に携わる「溶接女子」。2023年4月に入社したばかりののまさんは、同工場技術研究所に配属された「溶接女子の卵」である。

2015年4月に入社したいとうさんの出身高校には園芸科と普通科があり、いとうさんは普通科に所属していた。「任意で安全教育を受けることができる高校で、自ら希望して受講したアーク溶接特別教育で初めて溶接にふれる機会を得た」と語る。

就職活動に際して、明確な目標がなかったいとうさんの脳裏に溶接が浮かんだ。「高校時代、面白いと感じた溶接をやってみようかなという発想が原点」と当時を振り返る。

いとうさんは複数の溶接関係企業にコンタクトを取ろうとしたものの、女性の技能職員は募集していないなど現実を目の当たりにする。「中には女性ということで見学自体、断られたケースがあり驚いたことも。結果的に唯一、工場見学を受け入れていただいた当社を志望した」


いとうさん

のまさんは、就職先の検討にあたり、高校時代に学んだ商業科とはまったく関係のない職に就きたいと考えた。

「父が以前、溶接関係の仕事に就いていた。そこで、父と同様に、溶接関係の工場を選択肢の一つとして、求人の中から、知識がなくとも一から教えていただけるという、当社の求人を見て志望した」


のまさん

いとうさんは入社以来、一貫して溶接に携わる。現在は主にアルファベットの「I」(アイ)の字形に鋼板を組む鈑桁や箱形状に組む箱桁の半自動溶接を担当。溶接資格はJISのA―3FVH、SA―3FVHを保有する。

「溶接班に配属された当初は、先輩につきっきりで指導していただいた。端材を用いた練習からスタートして、1カ月ほど経って、実際の製品に携わるようになり、徐々に溶接に慣れていった」


鋼桁の半自動溶接に携わるいとうさん

入社間もないのまさんは、研究に使用する試験体製作の補助などに携わる。入社後の研修で初めて体験した溶接は「楽しい」という印象を抱き、現在実技に関してはJIS資格の練習などを通じて経験を積む。

溶接の魅力について、いとうさんは「奥深さ」と「感動」を挙げる。「同じ条件で溶接したとして、私と別の技能者では、異なるビードになるところに溶接の奥深さを感じる。また、自ら溶接した製品が橋になることにやりがいを感じる。竣工した橋を実際に見たときは感動を覚えた」

のまさんは、経験は浅いものの、「回を重ねるごとに少しずつ上達を実感できるところが現時点で感じる溶接の楽しさの一つ」と話す。


JIS資格の練習に臨むのまさん

今後の目標に関して、いとうさんは完全溶込み溶接の品質を挙げる。「溶接後のUTについて、先輩のように常に一発合格となるようさらなる技能向上に努めていきたい」。のまさんは「今は新人なので誰かについていく立場。ゆくゆくは引っ張っていけるような立場になれたら」と抱負を語る。

入社8年目のいとうさんを、のまさんは「やさしくて面倒見がいい」。いとうさんは、のまさんを「妹みたい。作業場が離れているためなかなか話す機会がない中で、更衣室などで話す機会があるとうれしい」と温かく見つめる。

いとうさんが「いずれうちの班に来てくれないかな」と勧誘すると、のまさんは「練習が必要」と謙虚に応じる――。2023年夏。千葉県市原市の海を臨む工場では、作業着姿の女性二人が、それぞれの立場でレベルアップに励んでいる。