社内溶接訓練

大島溶接技術高等訓練校で座学と実習
今年からバーチャル溶接訓練システムを導入

大島溶接技術高等訓練校の実習場

同社の従業員数は、2017年4月1日現在、社員約1,340人、協力会社約1,900人、技能実習生約260人。「工作部門の安全管理の対象は約2,400人で、実際に鉄の船を扱うのが約1,000人。そのうち溶接の資格保有者は約600人規模」(堀口常務)

新入社員はまず、大島溶接技術高等訓練校で教育を受ける。2017年度は76人(高卒技能職50人、高卒技術職9人、大卒事務職6人、大卒院卒技術職11人)が入社した。

入社早々、4泊5日の海上自衛隊体験入隊の後、高卒技能職(訓練生)と事務・技術職は異なるカリキュラムを受ける。訓練生は4-6月にかけて、座学と実習を行い、ガス技能講習、特別教育(アーク・砥石・粉じん)を修了後、仮配属となる。現場経験が6ヵ月必要な玉掛けに合格すると、翌月に床上クレーン、その後、高所作業車の試験を受ける。1年間で技能講習4種類、特別講習3種類を取得する。技能照査で溶接やガス、学科の習熟度について、筆記と実技試験を実施して、3月末に修了式を行い、各課に配属となる。
組立1課、同2課、建造課、艤装課に配属する社員はNK溶接技量試験で基本級を取得後、初めて現場に仮配属となる。したがって、溶接職はほかの職種から1ヵ月遅れて仮配属となる。一方、事務・技術職もNK溶接技量試験で基本級取得は必須であり、3ヵ月現場で研修を受けた後、9月には改善活動と報告会を経て、配属となる。

同社では現在、NKに関して年間1,100以上の技量試験(更新、新規、追加)を実施している。このうち新規は250件を占める。かつては溶接の経験者が入っていたが、新入社員除き、協力会社でも最近は溶接を経験したことがない場合が多いという。
そこで今年から新たにバーチャル溶接訓練システムを導入した。訓練校の一角には「OV―WES Room」(オーブイウェスルーム)と記した看板が掲げられている。OV―WESは「Oshima Virtual Welding Education Simulator」の頭文字をとったもので、ルーム内には米リンカーンエレクトリックの「VRTEX 360」2台、「VRTEX MOBILE」1台の計3台が稼働する。

導入の背景には「溶接の未経験者に対して、いかに効率的に溶接の基本を学習してもらうか」という指導側の思いがある。従来、訓練校に新入社員が入社した4-5月は、指導員も増員が求められた。通常、訓練生6-7人に対して1人の指導員が対応するが、一つのブースにつきっきりで指導することは難しいのが実情だった。また、実習の初期段階のいわゆる「トライアンドエラー」は、材料費はもちろん、効率的にも課題を認識していたところ、大阪で開かれた「2016国際ウエルディングショー」で担当者がバーチャルシステムのデモを見たのをきっかけに導入の検討が始まった。

今年から新入社員などの訓練に活用するバーチャル溶接訓練システム(訓練校内のOV―WES Room)

今年度の訓練生は、炭酸ガスアーク溶接実技訓練と連動して、バーチャルシステムを用いてビードオンプレート(1時限)、水平すみ肉溶接(2時限)、立向すみ肉上進(4時限)、立向すみ肉下進(3時限)の訓練を受けた。バーチャルシステムの導入によって、担当者は「訓練生が相互学習できる環境が整った」と指摘する。

「短時間で何回も訓練が可能で、人の溶接が見えるほか、数値で確認できるメリットもある。初心者には難しい上進すみ肉のウィービングのタイミングや、母材トーチ角度など、教えるポイントが明確になり、個人に応じた定量的な指導が可能になった」

訓練以外にも、同社が毎年10月に開催する恒例のバーベキュー大会で「バーチャル体感コーナー」を企画したところ、バーチャルを目当てに来場した子供がいたほか、工場見学に訪れた取引先の企業にも好評で、溶接に対する裾野広げる意味でもその導入効果を確認している。

取材を終えて
(後列左から時計回りに=工作部生産管理課生産技術係主任・出口純一氏、溶接技術顧問・岩淵寛氏、人事部採用課長・山口紳二氏、工作部生産管理課生産技術係長・渡邉範弘氏、工作部次長・百岳忠彦氏、常務大島工場工場長・堀口兵栄氏、工作部生産管理課生産管理係・福山あすみ氏)