多くの溶接現場で多様な人材が活躍するなか、求職者を訓練し、溶接士などの技能者を企業へ送り出す訓練機関であるポリテクセンターでも多様な受講生を受け入れるための環境整備が進んでいる。ポリテクセンター山形(山形県山形市)では2021年、新本館棟が完成し、女性用更衣室にはパウダースペースを設置するなど多様な人が通いやすいポリテクセンターに進化。また託児所と提携し、訓練中に受講生の子どもを無料で預かるサービスを展開するなど子育て世代が訓練に受講しやすい環境を整備した結果、溶接施工科で「溶接女子」を目指す、女性受講生が増加している。チャレンジスピリットで溶接士への扉を開き、溶接施工科で訓練に励む女性受講生(2月現在)である、しょうじさん、よしださん、かとうさんの3人に溶接の魅力と訓練を通しての学びや将来の目標を聞いた。

――溶接施工科に入所しようと思ったきっかけは

しょうじさん 前職では住宅向け電気工事の図面作成や見積もりなど積算の業務に携わっていました。ものづくりをする仕事に興味があり、ハローワークに相談した際に、当センターを紹介され、溶接施工科のパンフレットを見た時に、「これだ」と直感し、当センターへの入所を決意しました。


しょうじさん

よしださん 知り合いの人に溶接が向いていると言われたことがきっかけの一つです。前は塗装・内装の仕事をしており、製造・建設の現場で仕事をすることは性分にあうと思っていたことや、溶接では性別に関係なく活躍している人も多いと聞き、関心が深まり、溶接施工科に入所しました。


よしださん

かとうさん 以前はホテルで接客や応対を担当するホテリエとして働いていました。知り合いに当センターと溶接施工科について教えてもらった時に、短大時代に少しだけですが実習で被覆アーク溶接に触れた記憶が蘇り、面白そうだと思い、溶接にチャレンジする気持ちで挑戦しました。


かとうさん

共通の目標を持つ仲間と訓練

――訓練の雰囲気などは

かとうさん 訓練を受ける前は不慣れな部分も多くどこから学べば良いのか、不安でしたが、指導員や職員の方はわからないことがあると丁寧に基礎から教えてくれる上に親しみやすい人達で今では楽しく学べています。

しょうじさん 受講生は年齢や性別を問わず様々な人が集まっていますが、「溶接技能を習得して、社会で活躍する」と共通の目標を持って訓練を受けている仲間であり、仲がよく、互いを支え合いながら切磋琢磨できていると思います。

よしださん 指導員の方は経験が豊富で溶接に関する技能はもちろん、現場で役に立つ知識も熟知しており、溶接に使う消耗品を長持ちさせるためのメンテナンス方法など就職後にも応用できる話が多く面白いです。


訓練中の様子

発見することが溶接の魅力

――溶接の面白さは

よしださん 最初は指導員の方など上手い人の真似をするだけでしたが、それだけでは自分の溶接技能にならないことに気付きました。自分にとって最適な溶接条件や姿勢を調整していくなかで、「自分の溶接方法」を発見することが魅力であり、大きなやりがいだと思います。

かとうさん 同じ溶接でもパワフルな炭酸ガスアーク溶接と繊細な動きが必要となるティグ溶接など溶接方法によって必要な技能や勘どころが違うことは奥深いと思います。溶接は自分の技能や技術がそのまま溶接ビードにあらわれるなど「技の成果」が分かりやすいことも面白いです。

しょうじさん 溶接ビードの幅を揃えるなど見た目にも綺麗に溶接することは難しいですが、その分うまく溶接ができた時の達成感は大きいです。幅を揃えるためにはウィービングなどいろいろな技を習得する必要があり、自分の腕をあげるためにも、もっと練習しようと思う気持ちになります。

溶接は「為せば成る」

――溶接を通して成長できた点は

よしださん 知り合いから「溶接は難しいけど面白い」と聞いていました。確かに難しい部分も多いのですが、それを乗り越えて技能を習得していくことで自信を持てるようになると面白くなってきます。また、溶接を通して、最初はできないことでも「為せば成る」とプラス思考にものごとを捉えられるようになり、メンタル面も強くなれたと思います。

かとうさん できないからこそ努力し、上手くなるために、自分から意欲を持って練習に挑む姿勢の大事さを改めて認識できました。自分は前半が良い感じでも、後半に失速してしまう傾向があるので、スタミナを持たせるためのペース配分を意識した練習や体力作りなどに励んでいきたいです。

しょうじさん 試行錯誤を繰り返す重要性を改めて学べたと思います。被覆アーク溶接の訓練開始、当初、自分はアークの発生に苦労していたのですが、溶接棒と母材を接触させる方法や溶接棒の角度やタイミングなどを少しずつ改良しながら練習をしたところ、うまくアークを出せるようになりました。

身近で重要な溶接

――近年ポリテクセンターでも溶接の訓練を受ける女性の受講者が増えていますが、さらに「溶接女子」を目指す受講生を増やすにはどのような取り組みが必要だと思いますか。

しょうじさん 溶接などものづくりに興味を持っていても、どこで技能の基礎を学ぶことができるのか、わからない人も多いと思います。自分もハローワークでポリテクセンターについての説明を受けるまで、ここまで充実した環境で職業訓練を受講できる施設があることを知りませんでした。溶接業界を盛り上げていくためにも、まずはポリテクセンターなど溶接を学べる職業訓練機関の存在や内容をPRする活動も大事だと思います。

ポリテクセンター山形

かとうさん 溶接施工科の訓練を受ける前は、溶接は自分の生活とは遠い場所にある工業系の技術だと思っていました。しかしながら、訓練で溶接を学ぶなかで、自動車や自転車のフレームをはじめ、様々な箇所に適用されている身近な技術だと実感しています。また橋梁やガス・水道など生活に欠かせない社会インフラを支える重要な技術でもあります。溶接の身近さと生活を支える重要性をもっと世間の人に知ってもらうことが「溶接女子」に限らず、溶接に興味を持ってもらえる人を増やすきっかけになるのではないでしょうか。

よしださん 練習を重ねて技能を習得すれば、性別や年齢に関係なく活躍できるのでやりがいのある仕事であり、そうした部分をもっとアピールしていくことが溶接人口の拡大に繋がると思います。溶接は幅広い分野で使用されており、資格や特別教育が必要なことも多い技能なので、社会的なニーズが高く、企業からの求人募集は多いため、子育て世代にとっては手堅く働ける仕事であり、魅力的です。

――ポリテクセンター山形では託児所と提携し、訓練中に受講生の子どもを無料で預かるサービスを展開するなど子育て世代の人が訓練に受講しやすい環境の整備を進めています

しょうじさん 自分も6ヵ月になる子どもがおり、訓練中は当センターが提携する託児所に子どもを預けています。こうした仕組みが充実していれば自分のような子育て世代の人も訓練を受講する意欲も高くなるので、サービスの存在自体を、より周知してほしいです。


愛車でドライブ

――訓練が休み日はどのように過ごしていますか

かとうさん 就職後は車を運転する機会が増えるかもしれないので、自分用の車を購入したのですが、思い切ってSUBARUのインプレッサ・スポーツを選びました。訓練のない日は、暇があれば運転のトレーニングも兼ねて愛車でドライブをしています。また自動車にも溶接を適用している箇所が多いと聞いており、そういう部分でも生活に馴染んでいる技術だと感じます。

愛車とともに映るかとうさん

しょうじさん 休み日は家族の皆で、隣町にある夫の実家に戻り、近隣で家族と遊んでいることが多いです。子どもがまだまだ小さく、目を離せないですが日々成長しているので、見ていて元気をもらえることも多く、自分も訓練を頑張ろうと思えます。家族のためにも溶接士として活躍できるような技能を身につけていきたいです。

家族と遊ぶしょうじさん

よしださん 子育てに奮闘していますが、子どもと一緒にどこかに遊びにいくことが多いです。自分自身が出かけることが好きで、近くの公園や子ども向けの商業施設はもちろん、水族館、動物園、温泉、海、バーベキューといろいろな場所に行き、子どもや家族、友人と一緒に楽しんでいます。子どももそろそろ2歳になるので、やんちゃ盛りですが、時折見せるひたむきに何かに頑張る姿を見ると、自分も頑張らなくてはと思います。

子どもとくつろぐよしださん

一人前の溶接士になる

――今後の目標を教えてください

しょうじさん 誰が見ても美しい見た目で、内部欠陥もない溶接を毎回できる一人前の溶接士になることです。一人前の定義は人によって違う部分もあると思いますが、仕事を信頼して任せてもらえることが一人前のスタートラインと考えているので、まずはそこを目指して、残りの訓練、就職先でも頑張りたいと思います。

かとうさん 就職を希望している会社では産業用の機械を製造しており、ティグ溶接と炭酸ガスアーク溶接の技能を高めていくのが当面の目標になります。将来的には人に教えることができるくらいの溶接技能と技術を取得していきたいです。まだまだ練習中の身ですが、指導員の方と同じくらいの腕前と知識を身につけることが一つの理想だと考えています。

よしださん 就職後は溶接方法や母材の種類や大きさなど問わず、様々な製品の溶接に挑戦していきたいと考えています。ポリテクセンターの訓練では被覆アーク溶接、炭酸ガスアーク溶接、ティグ溶接と工場や現場で使われることが多い溶接方法をバランスよく学ぶことができるのに加えて、金属加工全般を習得可能なので、溶接のオールラウンドプレーヤーとなるべく精進していきたいです。

チャレンジスピリットで溶接を

――最後にメッセージをお願いします

よしださん 溶接を通して、ものづくりの面白さや醍醐味を知ることができます。溶接の魅力がもっと世間に浸透していくことで、多くの人がチャレンジスピリットをもって溶接に挑む社会になってほしいです。

しょうじさん どうしても溶接には3Kのイメージがあると思いますが、溶接時の溶融池などは幻想的で綺麗であり、一度やればきっとハマります。まずは、チャレンジスピリットでやってみることが大事です。

かとうさん 溶接は慣れないうちは難しい部分があると思いますが、技能を習得していくことで、それぞれの個性を活かすことができそうだなと感じています。少しでも興味があるのならチャレンジスピリットで溶接の世界に飛び込んでほしいです。

――本日はありがとうございます。皆さんの真剣かつ、楽しそうに溶接について語る様子から、溶接の魅力がさらに伝わりました。今から皆さんが溶接士として活躍する日々が待ち遠しいです。