新潟県糸魚川市に本社を構え、電気炉や工業炉、ロータリーキルン(回転窯)といったニッチな分野で世界中から注文が舞い込むニッチトップメーカーのタナベ(田辺郁雄社長)。10メートルを超える大型構造物を手掛けることが多い同社では、約30人の溶接技能者(溶接専門工8人)が在籍し、溶接加工を行っている。そんな同社で特に目を引くのが、男性技能者に混じって、大型構造物を巧みに溶接する女性技能者のそのださんだ。溶接専門工の1人として活躍するそのださんに、溶接技能者になった背景や溶接の魅力について話を聞いた。

溶接を始めたきっかけは、姉からの勧め

5年前に双子の娘を授かった。これといった趣味がなかった私の人生にとって、娘たちとの時間は何より大切な宝物だ。溶接の魅力はいくつかあるが、溶接技能者になったことで、娘との時間や生活を「守っている」と実感できるようになった。

溶接技能者になることを決めたのは2018年。出産後、仕事を探していたタイミングで、新潟県立テクノスクール(新潟市)で溶接講師として働く姉から「溶接仕事」を勧められて興味を持った。当時の私には、溶接についての知識が全くなかったため、同上越テクノスクールで半年間、溶接のイロハを学び、タナベに応募した。

溶接技能者として求人を探して気が付いたのは、溶接などの技能職が、多くの場合、一般事務職などと比較して給与水準が高いことだ。また一方では、繁忙期などの残業が発生するため、時間の融通がききにくい事業所が多いというデメリットもあること。だからこそ、子育てと両立することを求めていた私としては、「年間休日125日以上」が担保された上で、「残業時間が月間15時間未満」という当社の環境はありがたい。

一定量の給与・休日が担保されているのであれば、溶接ほど面白い仕事はない。溶接作業の魅力は、奥が深く極めがいのある技能であること。溶接は遮光面で限られた視界の中で、一人でもくもくと行う作業だ。そのため、美しい溶接ビードを引くことができると、自身の技術力向上を把握することができて、達成感がある。しかも、先輩社員の溶接条件を真似するだけでは、再現できないため、自分だけの溶接条件を探していく工程は楽しい。

当社は電気炉や工業炉、ロータリーキルンなどを製造しているメーカーであり、素材としては6ミリ、9ミリの金属板を溶接することが多い。最近になり、3メートル以上もある「電気炉の蓋部分」の半自動溶接に加わることができるようになってきたため、技術が成長していることを先輩社員が認めてくれたようで嬉しく思っている。


「溶接ほど面白い仕事はない!」と語るそのださん

入社前は、「背中を見て覚えろ」と怒鳴る怖い先輩社員ばかりだったらどうしようかと心配していたが、実際に入社してみると、先輩社員は優しい人ばかりだ。心配性の私は、何でも、先輩社員に確認してから作業に移るのだが、先輩社員は嫌な顔をせずに、しっかりと教えてくれる。また、頻繁に、様子を見に来てくださる先輩も多いため、「製造業は怖い人ばかりという認識は間違っている」と、安心したのを覚えている。

これから溶接を始める人、特に私と同じ女性に伝えたいのは、「思っているほど重たい物を持ち運ぶといった肉体作業が多くない」ことだ。多くの工場にはクレーンなどの設備が用意されているため、女性では重量物を持ち上げられないといったことはほとんどない。安心して溶接技能者を目指して欲しい。


大型構想物の溶接に臨むそのださん