溶接機を開発・製造しているパナソニックコネクトの豊中工場(大阪府豊中市)で、将来、理工系職業を目指す女子学生(高校・高専・大学)に向けた溶接のワークショップが行われた。奈良女子大学工学部が主催する「女性エンジニア養成ワークショップ(Women Engineers Program)」の一環で開催され、運営費は企業の協賛金で賄ったため、受講者の費用はかかっていない。3月11~13日の3日間にわたり、全国の高校・高専・大学から参加した15名の女子学生が溶接に触れる機会となった。

パナソニックコネクトは、「世界は溶接でできている」をプログラムのテーマに掲げ、最初の2日間で溶接技術の紹介、AR(拡張現実)技術を使った溶接シミュレーション、溶接オブジェ作りを実施した。

最終日の3日目には、3人1組のチームで課題に取り組む目玉企画が催された。各チームが溶接で小さな船(ポンポン船)を作り、速さを競うという課題であり、まず計6枚のステンレス板をティグ溶接で船を製作した。船の中には、動力となる銅管を入れ、銅管を固形燃料で加熱し、中に入れた水が沸騰して吹き出す時の推進力で船を動かすという仕組みである。ポンポン船の採点項目は船の速度や密閉度のみならず、溶接の美しさやオリジナリティ、更にはチームワークなど、完成物の評価に加えて制作過程も評価の対象にした。学生たちは、3日間で修得した溶接技術の知識を発揮できるように、一丸となって挑んだ。

溶接作業前にステンレス板を加工するチーム

船の外枠をティグ溶接で作り上げ、水を循環させるボイラーの部分は銅管を曲げて製作した。銅管で作るボイラーの部分をどんな構造にすれば早く安定して進むかを3人で考えることも課題の一つであり、各チームが入念に作戦会議を実施した。

ティグ溶接は、同じ素材を接合させる「共付け」と呼ばれる方法で作った。学生が溶接をするのはこのワークショップが初めてであり、電流設定が合わなかったり、トーチと母材の距離がうまく調整できなかったりして、溶接した時に穴が開いてしまうこともあった。このままでは船が沈んでしまうので、アルミテープで補修して水槽に浮かべるなど工夫を凝らした。


ティグ溶接でポンポン船製作を行う

こうして計5チームが作ったポンポン船は、全て一定時間は浮き、前に進むことができた。途中で沈没した船もあったが、このうちの一つは見事ゴール! 最初にゴールしたチームの代表者は「溶接が難しく、浮かべばいいやくらいのつもりだったが、まさかの一番でびっくり」と表彰式では笑顔で語った。


歓声が上がったポンポン船レース

お昼ごはんをはさんで、パナソニックコネクトの技術者と懇談する場が設けられた。学生を3つのグループに分け、パナソニックコネクトの技術者が時間を区切って学生の輪を回っていく方式である。学生から「いま勉強していることと違うジャンルに進んでもアピールになりますか」「働きやすいですか」といった質問があり、技術者が「勉強してきたことと会社でやることがガッチリかみ合うことは少ない。違っても気にしなくていい」「福利厚生が充実していたのでパナソニックを選んだ」と親身に相談に応じた。


沢山の質問が飛び交った技術者との座談会

ここでしか聞けない現場の話に興味津々

座談会の感想発表

最後に、パナソニックコネクトから学生たちへ表彰が行われた。

「めっちゃ手際がいいやんで賞!!」「溶接こだわったで賞!!」など、各チームの頑張りを讃えた賞のネーミングに、学生たちも笑顔を見せた。

3日間のワークショップ全体を通しての満足度は4.93 / 5.00(満点)の高得点であった。学生からは、「講義後、身の回りの溶接を意識して見ることができるようになった。」「社員との懇談会を通して学生時代にやっておきたいことと社会に出たときのビジョンが少し明確になった。」と好評の声が上がった。溶接をテーマにした初めての企画であったが、全国の理工系女子学生100名超から参加希望があり、学生の工学熱が明らかになった。

「Women Engineers Program」は、2022年に女子大初の工学部を開設した奈良女子大学が女性エンジニアを求める複数企業の協力を得て開催しているワークショップである。DMG森精機とソニー、住友電工グループ社会貢献基金寄付講座、川崎重工業がメインスポンサーとなっていて、引き続き女性エンジニアが参加できるワークショップを開催する予定になっている。


表彰式の様子

各チームが充実したワークショップを振り返った