「競技会での入賞も目指したい」

造船業界においても溶接女子の進出は著しい。新来島どっく(愛媛県今治市)で活躍するあべさんも溶接に魅せられて、この世界に飛び込んだ一人だ。溶接の道に進むきっかけや魅力、今後の夢などについて話を聞いた。

造船現場の製造部門を支えるあべさん

「もっときれいな溶接をしたい」と常に向上心を持ち続ける入社16年目のあべさん。現在、船舶造修本部船殻工作部組立課組立2係第3組立職に属する。造船独特の船体ブロック工法では切断、加工されたトランス材などを溶接していく。小組から中組、大組といった造船の各工程の流れのなかで、あべさんの炭酸ガスアーク溶接の技術が生かされている。


「もっときれいに」を心がけるあべさん

今治精華高等学校調理科の出身で調理師免許も持つ彼女は、2008年卒業後に新来島どっくに入社した。きっかけは学生時代から工業関係の仕事に興味があったことと、会社訪問で実際に造船場の様子を見学して入社を決めた。

当時についてあべさんは「実際に工場を見たときにとても楽しそうだった。客船の操縦をしていた父親の影響もあって、海や船が好きだったが、スケールの大きさに圧倒された」と振り返る。

入社後は3ヶ月間の新人研修期間中に溶接や溶断の基礎をみっちりと学んだ。初めて火花を飛ばした時の感想については「教えてもらったとおりにやったらできた」と語る。その後、実際の製造現場との違いなどは感じたものの、怖さなどはなかった。

自分自身の性格について「忍耐力はあるかもしれない」というあべさんは入社の時、最低でも10年は仕事を続けようと決めていた。女性ゆえに体力的に難しいと感じたこともあったが、自分がやりやすいように溶接方法を変えるなど努力でカバーしてきた。

一般的な男性溶接技能者ではわからない部分でもあるが、運棒ひとつをとっても女性では難しい動作が多々ある。トーチの重さによるミリ単位でのズレも溶接ビードに影響を及ぼす。

溶接時の姿勢や腕の運びなど自分が一番やりやすい方法を見つけると同時に体力をつけるなどして、入社して2年目ごろには最後までブレることなく溶接を行うことができるようになった。技術的に分からない部分もベテラン社員に聞いたり、先輩の動きを見るなどして会得していった。

「上手な先輩独特のトーチの動かし方や姿勢などを見て、どのタイミングで動かせばきれいに溶接できるのかを学んだ。高い技術を持つ先輩は足の位置や姿勢も安定している」と語る。溶接は自分で選んだ道であり、課題は自ら解決していこうと決めている。


長年の経験から培った技能が見事だ

そんなあべさんに溶接の魅力を尋ねると「きれいなビードを描けたとき」とシンプルな答えが返ってきた。そして「工事発注者や社内での溶接部検査の時に何も指摘されることなく検査を終えた時が嬉しい」と語る。一方で、きれいに仕上げたつもりでも上には上がいて、ゴールにたどりつかない点が難しくもあり、楽しさだと語る。

最近、高校時代の同級生が協力会社に入社し、ともに同じ溶接技能者として汗を流している。あべさんが強く誘い、営業職からの転職を決めたという。溶接に少しでも関心がある女性に対しては「未経験でもやる気さえあれば十分にできる」とし、「溶接をしながらダイエットにもなる」とPRする。

造船現場も現在では育成の専門社員がいるため女性でも働きやすい環境になっている。あべさんは「職場の雰囲気も良く、一人黙々と仕事を進め、自身の裁量でできることも多く、自分に合っている」と語る。今後は愛媛県溶接技術コンクールでの上位入賞を目指したいという彼女。今後、ますます技能に磨きをかけていく。


溶接職を目指す女性へエールを送るあべさん