あきらめずに溶接を継続
2015年から開かれる「こおりやま産業博」(主催=郡山商工会議所)では2年連続で半自動溶接のデモンストレーションを担当する機会を得た。ビードをひいて遮光面を上げるたびに来場者から送られた温かい拍手に「日常ではありえないこと」と感動を覚えた。
「溶接をしているときはいつも感謝の気持ちでいる。これまで多くの方々に指導していただいたおかげで今の自分の技量につながっている。何度失敗してもアドバイスや見本を示していただき、あきらめずに溶接を続けさせてもらったこと。仕事がうまくいかず、落ち込んでいるときに励まされ、また一歩自分を前に進めることができた大切な友人などに『ありがとう』の思いを込めて溶接している。社内外で継続的に参加する競技会も好成績を収め、日ごろ支えてくれる人に報告することで感謝の気持ちを示す機会ととらえている。製品が完成し、世の中の役に立っていることが恩返しだと思っている。その気持ちを忘れず、これからも体力が続く限り、溶接人生を貫いていきたい。まずは還暦まで、『好きな言葉は、溶接技術で飯を食う』と言い続けたい」
自動車板金で溶接に目覚める
高校卒業後、初めて就いた仕事は自動車板金業だった。修理作業で溶接に目覚め、仕事にしたい願望が強くなった。8年勤めた板金業から溶接の派遣業に転職したものの、景気悪化にともない8ヵ月で当時話題の「派遣切り」に遭った。
「『このまま溶接から離れたくない、もっと溶接の技術を極めたい』という思いでハローワークに通い、たまたま掲示されていたポリテクセンター福島のポスターが目に留まり、同センターへの入所を決めた。資格が強みになるのではないかと考え、6ヵ月の訓練期間中に半自動、ステンレス、アークの基本級など多くの資格を取得した。当時お世話になった訓練指導員に『郡山に面白いものをつくっている会社がある。半自動もティグもアークもできる』などと紹介され、当社に入社した。同センターで習得した基礎は今も生かされている」
現在の担当業務は溶接作業全般。鋼種はほとんどが鉄で板厚は1.6㍉から厚いものになると20―50㍉まで、半自動・ティグ・被覆アーク溶接を使い分け、飼料用ホッパーや重油タンク、排ガスダクトなどの製作に携わる。
「当社は大型品から小型品、量産品から一点物まで多種多様な製品を手がける。大型品の場合、数日をかけて延々と溶接を続けることもあれば、切断・仮組み・溶接・ひずみ取りなど製品を作り上げる一貫した作業も行う」
溶接の重要性、話す機会を要望
時々、同性から「溶接って何?」と聞かれることがある。その際、溶接そのものを語るより、溶接によって作られる製品について説明した方が理解を得やすいという。
「溶接技術者にはぜひ、家族と外出する際など、街にあふれる溶接によってつくられたものをみつけて、溶接の必要性や重要性などを家族に話す機会をつくってほしい。そういう機会が増えれば、私たち溶接技術者一人ひとりにとって『もっと人に見られる溶接をしよう』という明日への活力につながり、その力が大きくなればなるほど、溶接技術の向上につながるかもしれない」
同社への志望動機を読み返すと、当時身についていた知識や技術は、それまでに世話になった会社やポリテクセンターの指導員が一生懸命教えてくれたものであり「その感謝の気持ちを忘れずその知識や技術を生かし、企業の中で必要とされ役に立てる人材になりたい」と記してある。
入社以来7年、今も感謝を胸に刻み日々の溶接作業に臨む。
各種溶接競技会や資格取得試験などが近くなると、会社で実技の練習を重ねる。それ以外、天気のいい日は趣味のバイクを思い切り楽しむ。愛車はハーレーダビッドソン