藤精機株式会社(山梨県昭和町)生産部 シートメタル課

"営業からものづくりへ
家庭最優先で転職決心"

さとうさん

営業からものづくりへ 家庭最優先で転職決心

女性に勧めたい溶接職種

午前7時50分の朝礼後、8時から仕事が始まる。さとうさんが担当するのは主にクリーンエネルギー関係や医療部品などの寸法精度の厳しい精密溶接。板厚は0.8―3㍉、鋼種はほとんどがステンレス鋼という。

「溶接は書道の毛筆と同様に手先一つで仕上がりが変わる。すごく集中力が必要であり、うまくできたときの喜び、達成感は何物にも替え難い。男社会の中で、並んで同じ製品をつくっていくことは周囲にとって驚きの対象になるようだ。溶接技能者評価試験の受験者に占める女性の割合は0.5%と聞いたが、女性の少ない業界だからこそ就職を勧めたい。女性が少ないからこそ活躍の場があるのではないか。女性だからこそ求められる部分もあると思う。溶接は女性に適した丁寧さや繊細さを求められる部分が意外と多い。また、女性目線での提案を受け入れていただき、社内の美化や整理整頓のルール決めなどにも携わり、作業場全体の環境も非常によくなった」


刺激的だった6ヵ月の訓練期間

さとうさんはもともと宝飾業界に10年間在籍していた。離職後、再就職にあたり、ハローワークで紹介されたポリテクセンター山梨(山梨県甲府市)で初めて溶接を体験する。

「職業訓練コース説明会(半日コース)、職業訓練体験講習(1日コース)を相次いで受講した。講習の最後にティグ溶接を初めて経験したところ、指導員からきれいな仕上がりをほめられた。溶接体験に感動したことが入所するきっかけになった。金属加工科では製図の作製、プログラム、板取り、曲げ、溶接など製品をつくるにあたり必要な工程を一通り学ぶことができた。特に溶接については時間をかけて学習できるので、就職して現場で実際に作業に入る際にも臆することなく製品に向き合うことができた。大人になってからの学習や資格の取得はなかなか決心がつかないものだと思うが、訓練を受けることが資格取得につながり、独学では困難な専門的な知識を身につけることができる。毎日が楽しくてあっという間に訓練期間の6ヵ月が過ぎた。入所するまでまったく関わりのないことを学習できた訓練期間はすべてが刺激的だった」


溶接は「大人の工作」

溶接については「奥が深い」という印象を抱く。また、日常利用するさまざまなものに適用されることから身近にあると同時に、遠くて近い「大人の工作」であり、「こういう仕事をしていないとできない工作」と指摘する。

「職業訓練を受ける前は、ジュエリーのネットショップで店長を務めていたが、ページ構築や顧客対応など昼夜を問わない業務が続いたため、再就職を決心した。転職後は規則的な生活が可能になり、当初の目的だった家庭を大事にすることができるようになった。収入に関して、再就職した段階では前職より幾らかは低い状態であったが、その後の働きぶりを認めていただき、今は以前よりもよい収入をいただいている。

今後については、いつ、どんな材料でも動じることなく良い製品をつくっていけるレベルに到達することが目標。現状は新規のものが流れてくると多少戸惑う部分もあるので、例えばこの材料ならこうだろうと一層目からきっちりとビードを引けるように経験を重ねていきたい。また、男社会と言われているものづくりの中で、男女の壁を超えた、働く女性のよい見本となれるように努力して、今まで以上に知識や技術を身につけたい」


さとうさんは2016年10月13日、首相官邸(東京・千代田区)で開かれた「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」に参加した。

訓練前、インターネットのジュエリーショップの店長だった話から、「ゆくゆくは自分のチームをまとめ上げられるリーダーになりたい」という抱負まで安倍晋三首相に話す機会を得た。

最後に安倍首相は
「新たな人生をスタートする上において、それまでの経験をしっかり生かすことができるようになりつつある。そして、全くこの営業職からものづくりに変わる。そういう可能性があるのだということを、もっともっと多くの人に知っていただくことによって、どうも合わないと思ったら変われる社会にしていくことも必要だろうと思う。また、家族とともに生きるということの重要性の中において、仕事が選択できるということも大変大切だと思った」
と話したという。