トヨタ自動車のものづくり現場では、日々の小さなカイゼンを積み重ね、着実に成果へと結びつける精神が息づいています。「カイゼン」という言葉は、今や同社だけでなく、世界中で「従業員一人ひとりが現場の業務を見直し、『ムダ・ムラ・ムリ』を排除する」ものづくり活動の指標として定着しています。

本記事では、そうした現場の最前線で活躍する女性の溶接技能者3人、モノづくりエンジニアリング部のいいださん、モビリティツーリング部のまえださん・ささきさんに、カイゼン事例をはじめ、溶接技能者としての歩みや溶接技術競技会への挑戦などについて、お話をうかがいました。


①いいださん

■トヨタ自動車で溶接技能者として働くまでの、いいださんの物語を聞かせてください

私が所属するモノづくりエンジニアリング部では研修期間が定められていて、一通りの現場作業を体験した後に、それぞれ配属が決まります。しかし当初、私は溶接を行う部署ではありませんでした。

入社して2年後、入社時の自己紹介で「溶接が大好きです」と話した言葉を覚えていてくださった上長から声をかけていただき、同じ部内の機械加工職場から溶接職場へ移籍。これが、私の溶接技能者としてのキャリアの始まりとなりました。


いいだ
さん

■いいださんにとってトヨタ自動車での溶接仕事の魅力は何ですか?

社内文化として根付いた「カイゼン」が当社の魅力です。パフォーマンスを最大限に発揮するためのカイゼン案であれば、一つひとつ真剣に向き合い、対応策を一緒に考えてもらうことができます。例えば私の場合、男女間にある「筋力の差」に対するカイゼンに感謝しています。

半自動溶接で用いるワイヤーは20kg近い重量があり、運搬するたびに体力を消耗していました。また、ジグ製作で欠かせない重量部品を作業架台に載せる際には、自力で持ち上げられず周りの方に助けを求めることも多く、「いくら溶接技能が上達しても、そのたびに他の方の作業を中断させてしまうのが申し訳ない」と悩んでいた時期がありました。

そこで「カイゼン」の一環として、筋力に左右されない作業補助具を提案しました。重量物を持ち上げずにスライドして設置できるよう、作業架台と同じ高さの台車を開発。また、20kgのワイヤーは抱っこ紐のように肩掛けで運べる補助具を製作しました。 その結果、周りの方の手を煩わせることがなくなり、体力差に関わらず1人で安定してワイヤーを多く使用する多層盛り作業をこなせるようになったのです。

トヨタ自動車としては珍しい厚板溶接に従事する
いいだ
さん

■いいださんの今後の展望を教えてください

当社にはそれぞれの職種において必要とされる知識、技能を体系的に修得することができる専門技能修得制度というものがあり、その最上位はS級と位置づけられています。現在、女性の溶接技能者はまだ少ないのですが、当社で初めてのS級女性技能者を目指していくつもりです。技能の研鑽を重ねながら、後輩社員にとっても挑戦意欲を持てる存在になりたいと考えています。


②まえださん

■トヨタ自動車で溶接技能者として働くまでの、まえださんの物語を聞かせてください

私がトヨタ自動車に入社したのは2011年。それが溶接技能者としてのスタートです。当時、私が配属されたモビリティツーリング部には女性の溶接技能者は私一人しかおらず、溶接現場での知識もまだ浅かったようです。

加えて、私を指導してくださった先輩社員も、女性を指導する機会は少なかったと思います。それでも、性別に関わらず親身かつ丁寧に溶接技能を指導してくださったことに、今でも深く感謝しています。


まえだ
さん

■まえださんにとってトヨタ自動車での溶接仕事の魅力は何ですか?

幅広い選択肢があるところです。私は現在、育児休暇を経て溶接工程から設計工程に転属となっています。ライフスタイルの変化に柔軟に対応してくれる職場の対応にはとても感謝しています。

溶接技術競技会に出場した経験を通じて、溶接技能者として培った知識や技能を生かし「より溶接しやすい設計」を意識できるようになりました。私の所属するモビリティツーリング部は1点物の制作が多く、勘所をつかんでも次にそのまま生かせない難しさがあるのですが、競技課題のように一つの構造物に集中できた時間が、技能向上に大きく寄与しています。

溶接を通じて当社の幅広い業務に関われた経験は、溶接技能者であっても、そうでなくとも、「溶接を好きになる」きっかけを与えてくれたと思っています。

■まえださんの今後の展望を教えてください

後進を育成する立場となった今、自身がこれまで苦戦してきたポイントや、つまずきやすい箇所を、丁寧に言語化して伝えていきたいと考えています。複数の職種(工程)を経験してきたからこそ、設計・製造の両面から技能を支援できると考えています。私が学んできたことを次の世代につなげ、より働きやすく成長できる環境づくりに貢献したいです。


③ささきさん

■トヨタ自動車で溶接技能者として働くまでの、ささきさんの物語を聞かせてください

私が所属するモビリティツーリング部には、設計・溶接・粗形・CAM・機械加工・仕上げ・計測の7工程があり、入社時にすべての工程を体験しました。その中で最も面白いと感じたのが溶接だったため、志望しました。

また、溶接工程には当時、数少ない女性技能者の一人である、まえださんが在籍しており、大柄な男性の技能者に混じって堂々と作業する姿が格好良く映り、憧れを抱いたことも志望の理由の一つです。


ささき
さん

■ささきさんにとってトヨタ自動車での溶接仕事の魅力は何ですか?

当社には凄腕の技能者が多く在籍している点が魅力です。溶接技能者の中には、過去に日本一に輝いた実績を持つ方もおり、判断に迷う時には力強いアドバイスをもらうことができます。

次に挑むべき課題が明確に把握できるからこそ、溶接に夢中になれたと感じています。努力と情熱を注いだ時間は必ず成果として表れます。

私は2021年、溶接技術競技会への社内選考を突破し、愛知県溶接技術競技会に出場しました。結果は5位で全国大会には届かなかったのですが、挑戦を通じて溶接がさらに好きになりました。

また、モビリティツーリング部は比較的年齢層が若く、コミュニケーションが円滑です。互いに切磋琢磨しながら成長できる環境が整っていることも、大きな魅力の一つだと考えます。

■ささきさんの今後の展望を教えてください

今後は、老若男女の垣根なく、7工程の中から自分のやりたい仕事を自由に選択できるようにしていきたいです。そのためには、「技能を身につけるまでの時間をいかに短縮できるのか」が鍵になると考えています。

最近は後進の技能指導にあたる機会も増えてきたので、今後は技能修得におけるPDCAを、より効率的に回せる仕組みづくりを進めていきたいです。