大阪大学接合科学研究所(大阪府茨木市)は、溶接・接合分野に関するわが国唯一の総合研究所である。接合研に所属する120人の学生のうち8人、留学生については28人のうち4人が女子学生である(2018年5月1日現在)。女子学生が接合研を志望したきっかけは?また、将来目指す進路は?本欄では6人の女子学生と、唯一の専任女性教員に話を聞いた(順不同。2018年11月27日取材)。
阪大接合研を訪ねて
入学の動機と将来の目標
女子学生にインタビュー
第一に金属材料学に興味があった。日本は世界でも高い革新的技術を有している。阪大は特に理工系の研究が有名であり、奨学金を申請し、接合研に所属する機会を得た。
溶接は非常に重要なプロセスであり、溶接技術は広範な産業で使用されている。製造だけでなく、メンテナンスや修理にも用いられる。
また、様々な技術で作られた材料や部材を繋ぎ合わせることで、機能的で多様性に富んだ製品を生み出すことができる技術でもある。
米国の映画で女性が研究者として働いているのを見た。 その女性はとてもスマートで強く、あこがれの人となった。将来は技術開発をサポートするために自分の知識を生かせる組織で働きたい。
(タイ・バンコク出身)
研究内容は信頼性の評価。疲労損傷に関して、数値シミュレーションを用いてアルミニウム合金継手の寿命予測に取り組んでいる。
高校生のころ、志望分野が明確ではなかったため、入学後に学部を移籍できる制度に興味を抱き、阪大を受験した。
接合研を志望したのは、研究者への憧れがあったから。進路選択にあたり接合研を知り、技術開発から信頼性評価にいたるまで溶接・接合に関してすべてがそろう施設という印象を受けた。
来春就職する鉄鋼メーカーには研究職の希望を示している。数値シミュレーションに関してまだ知識的に足りない部分があるので、若いうちに時間のかかるプログラミングや統計処理のアプローチを経験したい。就職先で博士課程を修了した後、より具体的に将来を考えたい。
(大阪府出身)
現在、新規接合法の開発に携わる。ベースになるのはFSW(摩擦攪拌接合)で、中空構造の裏当て材の開発に取り組んでいる。先日はエジプトで開かれた国際学会で発表する機会を得た。
もともと阪大ではなく、別の大学でマテリアル系を選択し、接合に興味をいだくようになった。学部4年の時、接合研を見学し、設備機器のレベルの高さに驚いた。一つの施設として完成され、ここならさらにレベルの高い研究ができるのではないかと考え、院生から接合研に移籍した。
進路に関して特に溶接にこだわりはない。就職活動を通じ、企業は溶接に携わる女子学生を求めていることを実感した。今春就職する空調機メーカーでは女性だからではなく、おちを採用してよかったと言われるよう、研究に励みたい。
(兵庫県出身)
FSWのツールに用いる専用鋼の開発に向け、金属組成の研究に携わっている。
姉やいとこが理系に進学し、両親の進めもあり、理系の道に進んだ。中国の大学では材料が専門で、4年の時、接合を専攻した。進路を考えたとき、接合なら阪大接合研が世界的にも有名であり、当時の大学に接合研出身者が在籍していたこともあり、FSWの研究室を志望した。
今後の進路に関して、博士課程か就職か悩んでいる。大学に残って学会や実験に従事するよりも、就職した方が自分の時間を多く持てると思うし、日本で就職すれば安定した生活が期待できる。ただ、教員にも関心があり、今二つの道のどちらを選択するか考えている。
(中国・重慶出身)
研究のメーンは、電機・電子部品の半導体接合部の信頼性評価。実験を重ねる中でその方法は正しいのか、実際に起こりうる破壊なのかなど、より現実に近い信頼性評価方法を研究している。
中高は女子校で理系に進むのはめずらしい環境の中、中学生の頃から父がいろいろな大学に連れて行ってくれた。その中でもレベルの高い阪大に入学したいという思いが強くなった。もともと宇宙科学に興味があり、いろいろ調べていくうちにものづくりを志向するようになったのが、接合研を志望したきっかけだった。
将来は日本のエレクトロニクス技術とともに、世界をけん引する技術を支える一員になりたい。目標へのアプローチは今後の就職活動の過程で考えていく。研究か生産かは別にして、ものづくりに携わっていきたい。
(大阪府出身)
卒論のテーマは、ハイテン材と樹脂のレーザ溶接の数値シミュレーション。広島から適度な距離にある関西から九州の範囲で、適度な偏差値という前提のもと阪大を選択した。7割は理系が占め医学部志望の多い女子校で文理選択の際、本が好きだったので文系の選択もゼロではなかったが、数学も好きで暗記科目が増えるのは避けたかったので理系を選んだ。
学部3年の時、造船所を見学する機会を得て、溶接のほとんどが人の手によるものだと知った。研究施設ではロボット開発などの説明を受けたが、実際の製造現場では採用が難しいと聞き、初めて溶接を意識し、溶接の研究室に入った。人の手による溶接がある半面、人の手ではできない溶接もたくさんある。将来は溶接技術の開発を通じてものづくりに貢献する仕事に携わりたい。
(広島県出身)
女性教員にインタビュー
研究内容は、もみ殻から高純度シリカを抽出することと、もう一つは純チタンに合金元素を加え高強度・高延性な材料を作り上げること。高純度のシリカならコンクリートや化粧品、チタンなら医療用機器や航空機部品などの要望に応え、実用化される製品開発に携わりたい。
また、女子学生をもっと増やすため、接合研が活力あり魅力的な研究機関であると同時に、研究における女子学生の活躍についても、様々な機会を活用しながらアピールしていきたい。
魅力をアピールするには当事者が楽しいと感じることが大前提となる。学生が楽しく学び、学生の目標の実現を後押しすることが教員に求められている。一般の理系のイメージを覆すような、接合研の学生の明るい姿をこれからも発信していきたい。