プラント設備の製造を手掛ける宮富士工業(宮城県石巻市、後藤春雄社長=宮城県溶接協会会長)は2021年10月公開の映画「護られなかった者たちへ」(松竹、瀬々敬久監督)に実名で登場した。主演の一人である佐藤健さんが演じる利根泰久役の勤務先として登場したことから映画公開後、聖地巡礼で同社に多くの女性見学者が訪問するなど反響を呼んでいる。

同社の登場シーンは実際の社内と工場で撮影され、作中で佐藤さんが溶接するシーンもあることから、事前に後藤社長が佐藤さんへ溶接指導を実施した。後藤社長は12年度に「現代の名工(アーク溶接工)」の表彰を受け、14年には黄綬褒章を受章するなど卓越した溶接技能を持つ。佐藤さんは後藤社長より溶接の指導を受けた後、宮富士工業社員の利根泰久役として同社の社名が入ったヘルメットをかぶり、溶接服に身を包んで溶接シーンの撮影に挑んだ。

後藤社長は「被災地の今を描いていたのに加えて、人間の尊厳や社会問題の深層に切り込んだ重厚なヒューマンドラマ。石巻南浜津波復興祈念公園や被災した旧門脇小学校の校舎など東日本大震災から10年が経過した石巻市および被災地の現在を写した場面もたくさんある」と映画について語る。

宮富士工業前にて、後藤社長

映画公開後には舞台となった宮城県に聖地巡礼に訪れる映画ファンが増えおり、同社にも約30人が訪問した。特に女性ファンの多い佐藤さんが演じた役の勤務先として映画に登場したことから聖地巡礼を目的に同社を訪問する見学者はほとんどが女性だという。同社では佐藤さんが装着したサイン入りのヘルメットや練習で佐藤さんが溶接した板材などを公開しており、見学者にも好評だ。また、映画では佐藤さんが同社の2階にある休憩室のソファーに布団を敷いて、寝泊まりするシーンもあるが、熱心なファンはソファーも撮影する。そのため同社では撮影時に使用した布団も残している。

佐藤さんが練習した試験材
佐藤さんが寝泊まりした布団

同社への見学について後藤社長は「事前に当社へ電話などで連絡し、見学する時間や見たい場所などを相談の上でアポイントメントをとってもらえれば当社へは聖地巡礼は大歓迎だ。聖地巡礼の形でものづくりの世界に関心が高まることは溶接と鉄工に携わる人間として喜ばしい」と語る。

その上で「映画で興味を持った人が、もう一歩踏み込んでものづくりの世界に挑戦したいと思える環境を作りたい」と述べた。

 現在、同社では幅広い人々を対象に、ものづくりの面白さを伝えるとともに、溶接と鉄工関連の資格取得などを支援し、産業界の振興と今後の就職やキャリアアップに繋げる「ものづくりの学校」の開校を計画する。「あくまで理想の話」と仮定した上で後藤社長は「聖地巡礼に来た映画ファンが当社の『ものづくりの学校』を見学し、映画にあったシーンのように自分も溶接に挑戦してみたいと入学するような流れができれば、映画に出演したことに大きな意味が生まれる」と展望を語った。