「全国競技会はいま思い出しても楽しかった。もてる力はすべて出せた」と語るのは、マツダの渡部香さん。2017年10月に神奈川県で開催した第63回全国溶接技術競技会半自動溶接の部に広島県代表として出場した。広島県府中町の本社工場を訪ね競技会出場までの道のりや溶接との出会いを聞いた。

マツダ株式会社
"楽しかった
全国競技会"
本社工場車体製造部
渡部 香さん(2014年入社)

全国大会当日の朝、競技会場の控えスペースで同じくマツダ所属の被覆アーク溶接の部代表、岩奥康平さんと一緒に入念に準備体操をする渡部さんの姿があった。適度な緊張感の中、ルーティーンをこなすことで平常心を保とうとしているように映った。2回目の競技会挑戦にして広島県代表の座を得ての出場だ。
島根県出身の渡部さんは2014年にマツダに入社。それまでは松江高専で土木を学び、卒業後は製造業とはまったく関係の無い異業種に就いた。その後「ものづくりの技能を身につけたい」とポリテクセンター島根に入所「講師の方が東京スカイツリーの建設などを例に、溶接の魅力や重要性を熱心に説明してくれた」のがきっかけで溶接に興味を持つようになった。
マツダ入社後は直接溶接とは関わらない、車体の組み付けの仕事に配属されたが、溶接をやりたいとの思いから社内の溶接技能教育の受講を上司である加崎敏志職長に志願。40時間の技能教育を行った後、県大会出場選手の選考も兼ねた社内大会に出場する。16年には社内選考は突破したものの県大会では惜しくも2位。雪辱を期した17年大会で晴れて代表の座を射止めた。

代表権を獲得してからは、本社工場内の溶接技能訓練場で集中した溶接訓練に入る。中板の競技課題に邪魔板が入るようになったが、「競合する他社の選手は、上から穴を覗いて溶接することが多いが、私たちは下から覗く方法をとった」と独自の道を選んだ。コーチ役を務めた、過去に全国大会入賞経験を持つ高野正弘コーチも「一目で分かるマツダらしい溶接ビード」で全国優勝を遂げたいという熱い思いを共有した。
精神面を鍛える目的からも、全国大会の約2カ月前からは2週に一度のペースで大会当日を想定した模擬大会を開催し、本番前には本社の幹部も揃う、敢えてプレッシャーをかける環境の中で競技同様の溶接を行うなど万全の準備をした。
渡部さんに溶接に関して女性と男性との違いを聞くと、「溶接そのものに関しては手先の感覚の世界なので有利不利はないと思う。ただ開先加工やビード磨きでは力がない分苦労する」と語る。
チームとしてもワイヤブラシは硬いものを選ぶなど、渡部さんに適した道具を探しだし、渡部さん自身も「開先加工時の効率的な体重のかけ方を見つけだす」など競技会対策を練った。

全国競技会当日は、付添やコーチ陣は選手の後ろから見学が可能だったが、「本人が緊張するので、競技中は控え室のモニター中継で応援していた」、「溶接ビードを見る限りでは普段通りの実力がだせたようだ」と振り返り、満を持して審査結果を待つ。
全国競技会を終え渡部さんは選手としては今回で卒業。来年の5月までは次の広島県溶接技術競技会へ出場する選手の指導にあたり、大会後には生産現場に戻る予定だ。

社内での溶接工程は、ほとんどがロボットでのスポット溶接。渡部さんも現場に戻れば「ほとんど溶接をする機会はないと思う」。過去の全国大会優勝者でも同様だそうだが、「競技会参加の意義は、技能の習得は当然だが、人としての成長にある。練習すればある程度は誰でもスキルは上達すると思う、ただ県や全国でトップを取るにはそこから一段階、二段階とスキルを向上させる必要があり、そのなかで精神面や考え方が鍛えられ、人として成長に繋がる」と溶接技術チーム総括の中本和臣さんは言う。訓練の過程やその後の指導を通じて、リーダーシップも育成され、その後はどの現場に配属されても経験は生きるという。
「会社や企業のブランド価値を成長させるには、人の成長が不可欠」(中本さん)

笑顔をたやさず快活に話し、学生時代はバレーボール部に所属しキャプテンを務めていたという渡部さんだが、普段の生活はインドア派だという。「まずはこの2年間の競技経験を、5月までの指導ですべて後輩に伝えたい」とこれからの決意を語ってくれた。