人材定着への取組み
ものづくりに携わる中小企業・小規模事業者における人材不足の状況の中、人材確保とあわせて人材定着が大きな課題となっている。「当社も人材の定着に関しては相当苦労を重ねてきた。
そこで定着率を改善したいという発想のもと、若い世代にとって居心地の良い組織づくりに努めている」と話すのは、プラントの設計・製作・施工を手がける高砂化工機(埼玉県川口市)の富岡憲治社長。
同社では現在、2020年に未経験で採用した女性2人が溶接をはじめとする製缶作業に取り組んでいる。富岡社長は当初、未経験であることに半信半疑だったが、日本溶接協会が溶接界への女性進出を支援するウェブサイト「溶接女子会」で活躍する技能者の実例を見て「背中を押されたこともあり採用を決めた」という。
製缶作業で未経験者2人採用
2022年、創業60周年を迎える同社は、化学ならびに食品分野のプラント工事・設計、機器製作、メンテナンスなどを展開する。売上構成はプラント工事・設計が6割、機器が3割、メンテナンスが1割を占める。機器製作の主力は撹拌槽であり、タンクとともに撹拌機メーカーとしても定評がある。納入先は化学8割、食品2割。使用材料はステンレス鋼9割、鉄1割で構成する。
富岡社長は、溶接と製缶、組立て、さらに非破壊検査にも対応可能な「高度技能集団」であることを同社の特徴に挙げる。実際、同社の免許・資格に関する一覧を見ると、例えば特別ボイラー溶接士、X線作業主任者、放射線透過検査レベル2、溶剤除去性浸透探傷検査レベル2などで共通する氏名を多く確認することができる。溶接に関しては溶接管理技術者1級が2人在籍するほか、鉄工技能士(製缶作業、構造物鉄工作業)などの取得も奨励している。
同社では人材の定着が長年の課題だった。富岡社長は、ある程度まで育ったにもかかわらず若者が辞めていく現実に直面し、様々な改善策を試してきた。会社の雰囲気を変えたいという思いは少しずつ実を結び、「近年は若い世代が徐々に増え、当社の雰囲気も変わりつつあるというタイミングで2020年、人材募集を行った」
溶接女子会キャラクター
「フラワーちゃん」
募集開始後、富岡社長は日本溶接協会「溶接女子会」で公開される女性技能者らの活躍に目を引かれた。「当社にも以前、女性の現場監督が在籍していたが残念ながら長くは続かなかった。今回の求人を通じ、製缶作業はまったくの未経験である20代半ばの女性2人から相次いで応募があった。時を同じくして『溶接女子会』を通じあらためて女性の活躍を知る機会を得て、感化されるところもあり採用に至った」
入社から1年が経過した女性2人は現在、製缶作業の中でも溶接を主体に罫書きや切断などの作業に携わる。「溶接だけならそこそこのレベルに到達しつつある。ただ、製缶は1年で一人前という世界ではなく、どうすれば若い世代のモチベーションを上げられるのか、手探りの部分が多いのも事実」としながら、富岡社長は、同社に新たな風を吹き込む2人の熱心な仕事ぶりを温かく見守っている。