ポリテクセンター宮城では、2011年東日本大震災で被災した影響もあり、溶接施工科など機械系の訓練は名取実習場(名取市)で実施し、電気・電子系及び居住系の訓練を多賀城実習場(多賀城市)で行う体制で運営していた。そのようななか、受講生の利用環境を向上させつつ、効率的な職業訓練を実施するため、21年12月、新実習棟を多賀城実習場に建設し、名取実習場の機能を多賀城実習場に移転・統合した。新しく生まれ変わったポリテクセンター宮城の多賀城実習場では溶接施工科の溶接実習場が整備されたほか、AR溶接訓練システムなど新たにデジタル機器も導入。また、移転・統合にともない、広報活動の強化にも取り組んだ結果、同科内の受講生における女性の割合が約4割になるなど女性受講生の数も大幅に増加。今回は溶接士としての活躍を目指し、同科で鍛錬を重ねる「溶接女子」の卵である(5月31日現在)、あべさん、ちばさん、いちかわさんの3人に溶接の面白さや生まれ変わったポリテクセンター宮城の魅力を聞いた。

――ご自身の経歴も踏まえながら自己紹介をお願いします。


あべさん 新しい仕事を探すなか、当センターの説明会に参加した際に、自分同様にものづくりの経験のない女性が溶接施工科の訓練を受講し、溶接士になる紹介動画を見て、自分もやってみたいと思い3月の入所を決めました。

ちばさん 以前は義肢装具を製作する仕事をしていました。仕事を通して、ものづくりの仕事にやりがいを感じるなか、当センターの溶接施工科の存在を知り、高温で鉄と鉄を繋げる溶接に魅力と運命めいたものを感じ、3月に入所しました。

いちかわさん 洋菓子職人として働いていたのですが、溶接士の友人に溶接は難しい技術と言われたため、興味を持ち自分が挑戦してみたいと思いました。技能を習得するのであればしっかりとした職業訓練機関に通った方がよいと考えて、昨年12月に入所しました。


あべさん

新しいポリテクセンター

――同センターは震災後に建設された名取実習場にあった溶接施工科などの機械系の訓練機能を昨年12月に多賀城実習場への移転・統合し、改修や新設工事を行い、溶接実習場などを整備しました。新しい溶接実習場や設備、訓練全体の雰囲気などはどう感じますか。

いちかわさん 溶接実習場も教室も綺麗で自分の中にある溶接や職業訓練のイメージが覆されました。また、自分が入所した本科の同期には4人女性がおり、女性の受講生が予想以上に多い印象があります。やはり、女性が多い方が安心感もありますし、休憩時間などでも女性同士で話をしやすいので雰囲気も良いと思います。

ちばさん 設備はもちろん訓練の内容自体も興味深い内容が多く、毎日が楽しいです。当センターに導入されているAR溶接訓練システムの存在にびっくりしました。実際の溶接と比較してもリアルに再現できていると感じます。休憩時間など合間の時間など普段から使う機会が増えるとさらに良いのではないでしょうか。

あべさん 自分は工場見学会などで実際の溶接工場を見学しましたが、当センターの設備は企業の溶接工場と比較しても遜色なく、充実していると実感します。また訓練でも、指導員の方が金属の基礎的な知識から溶接技能に対するアドバイスなど丁寧に教えてくれるので、入所前、ほとんどものづくりに携わることなかった自分でも着実に成長をしている実感があります。

溶接には繊細さも必要

――溶接する前と後の印象の変化などはありますか。

ちばさん 溶接は力と豪胆さが必要なワイルドなイメージがありましたが、実際は電流電圧の微調整、溶接中の腕の動きなど繊細な技術だと実際しました。義肢装具の製作でもプラスチックなどを削る時に細かく手を動かす部分もあるので、その部分は前職の経験が生きていると思います。また指導員の方から肩の力を抜かないと良い溶接ができないとアドバイスを受けており、その通りだと思います。

あべさん 漠然と高温で金属を溶かす技術だと思っていましたが、一言で溶接といってもガス、被覆アーク、半自動、ティグ溶接など多種多様な溶接法があり、奥深いと思います。また、同じ溶接方法でも母材や板厚が変わると感覚も全く変化するので難しさもありますが、同時に上手くいった時のやりがいも感じます。

いちかわさん 自分は友人に難しいと言われていたこともあり、習得が困難な技術といったイメージが強かったです。しかし実際に溶接してみると難しい以上にものづくりの醍醐味がある楽しい技術だと思います。確かに溶接前から終わるまで集中力を持続させることは大変ですが、溶接ビードを上手く盛れた時の喜びは大きいです。

溶接で毎日が充実

――溶接の魅力はなんでしょうか。

あべさん 遮光面を被ることで視界が暗くなるなか、目の前で溶接材料が溶けていく様子が幻想的で自分は溶融池の様子を見るのが好きです。また、もっと早く溶接に出会いたかったと思うくらい、毎日が充実しています。就職活動中で何をしようか迷っている方や、ものづくりの道に進もうと考えている方はぜひ溶接に挑戦してほしいです。

ちばさん 自分も溶接中は自分だけの世界に入れるところが魅力だと思います。手、腕の微妙な動かし方など繊細さが必要で難しい部分もありますが、きれいに溶接ビードがひけたときの達成感は何事にも代えがたいです。また別の金属と金属が繋がることで一つの製品とすることに面白さを感じます。

いちかわさん 溶接は地道な努力の積み重ねが形になることが魅力だと思います。溶接では一つの溶接を終えるごとに課題を分析し、次の溶接に繋げていくことが大事ですが、すぐに形になるものではなく、地道に練習を重ねることが必要になります。だからこそ優れた溶接技能は日々の鍛錬の証であり、誇れるものだと思います。

ちばさん

「溶接女子」が「普通」に

――ポリテクセンター宮城の溶接施行科女性受講生の割合が約4割(5月31日時点)と他のポリテクセンターとしても比較的高いです。どうすれば溶接士を目指す女性が増えていくと思いますか。

あべさん 前職は事務職をやっていましたが、女性が事務職などのデスクワークの仕事をすることは世間では「普通」とされています。一方で女性が溶接士になると聞くと、良くも悪くもびっくりされることは少なくないです。いずれは「溶接女子」が驚きにならない「普通」の選択肢になれば良いと思います。そのためにも、自分のように他業種から溶接の世界に飛び込む女性が一人でも多く増えてほしいです。

ちばさん ものづくりに興味があり、ポリテクセンターの入所を検討している女性が説明会などで話を聞いた際に、「溶接施工科は女性受講生も多い」といった情報があれば、入所しやすいと思う女性は多いと思います。企業の溶接現場でも本科のように4割、あるいはそれ以上の割合で溶接士として在籍している状況が「普通」となることを望んでいます。

いちかわさん 仕事の溶接ではもちろん、溶接競技会でも活躍する女性の溶接士は多いと聞いています。一方で「溶接女子」が「普通」にならないのは、「現場で活躍する職人=男性」のステレオタイプが世間の中で未だに根強いことにあると思います。また、自分が溶接士の希望で就職活動をしていても男女別の更衣部屋がない工場など企業側の受け入れ体制ができていないケースもありました。心理的な偏見が払拭され、女性も働きやすい職場環境が整備されれば溶接する女性が「普通」になると思います。

目標は溶接士

――今後の目標についてお伺いします。

いちかわさん 自分は主にティグ溶接などで金属製品製造、内装工事を行う企業に就職が決まっています。就職後の目標は溶接技能をさらに磨き、就職先の工場長や主任のような溶接士になることです。就職前に工場内で行われている溶接を見せてもらった際に、ビードの形状、スピードなど全てのレベルが自分の知っている溶接とは異なり段違いに高く、驚愕しました。自分もいつか、そのレベルに追いつきたいと考えています。

ちばさん 訓練の中で学ぶ被覆アーク溶接、半自動溶接、ティグ溶接のJIS溶接技能者評価試験の基本級3種類(A-2F、SA-2F、TN-F)を全部合格し、溶接士としての就職を目指したいです。溶接士としては自分が溶接した製品だと、自分でわかるような溶接に携わる仕事をしていきたいです。漠然としていますが街や日常生活で見かける建築物や製品を溶接する仕事ができればと思います。

あべさん 溶接士を一生の仕事にしたいと思っており、当センターの訓練で指導員の方から教えてもらうことを一つでも多く吸収していきたいです。就職先でも、まずは溶接してみて、わからない箇所があれば先輩や上司の方に積極的に教えを請うなど溶接士として活躍できる技能を習得していきたいです。どのような製品を溶接する溶接士なりたいかは未定なので、訓練を受ける中で自分が溶接したい製品や構造物を見つけていきたいです。

―本日はありがとうございました。生まれ変わったポリテクセンター宮城で溶接を学んだ皆さんが溶接士として、ものづくりの世界で活躍する日を楽しみにしています。

いちかわさん