「目標はアルミニウム溶接の全国競技会出場」「女性溶接士が増え、一緒に仕事をすることが理想」――。日立製作所鉄道ビジネスユニット笠戸事業所(山口県下松市)では、2人の女性溶接士が新幹線の台枠製造に携わる。

同事業所笠戸交通システム統括本部車両生産本部車両製造部車両第1課の台枠組に在籍するまつもとさんともりまささんは、台枠組を構成する約90人のうち3分の1を占める本溶接担当の溶接士である。

2019年春に入社したまつもとさんは、農業高校1年の実習で初めて体験したときから溶接に興味を抱いた。

「高校卒業後、兄が自動車整備科に通っていた職業訓練校の溶接技術科に入校し、1年の訓練期間で手溶接、半自動溶接、ステンレス鋼溶接の溶接技能者評価試験(基本級)に合格した。高校時代は溶接棒がテストピースにくっついて難しいと感じたこともあったが、火花が散るさまなどがかっこよく、卒業後の進路として溶接を強く意識した」

まつもとさんは高校当時と変わらず今も面白いという溶接について「自分の成長、あるいは、足りないところがはっきりと分かる仕事であり、新しい自分を見つけることができる仕事でもある」と話す。

まつもとさん

ペット専門の美容師、トリマーなど溶接とは無関係の仕事に就いてきたもりまささんは、「いろいろな人とのつながり」が縁で昨秋から同事業所で自ら望んだ溶接に携わることになった。

もともと協力会社の派遣として同事業所で車両の艤装関係を担当していたもりまささんは、派遣期間が終わりを迎えるころ、次の仕事を思案する中、「どうせならやりたい仕事」ということで溶接職を志望した。

「息子に同行した職業訓練校のオープンキャンパスで溶接に興味を抱いた。派遣のときには若い女性溶接士の仕事ぶりを目の当たりにして、いつかは自分もという思いはあった。年齢的な不安はあったものの、協力会社の役員と溶接の担当者が知り合いだったなどの縁も重なり採用いただくことになった」

もりまささん

同社鉄道事業は近年、グローバルに生産拠点の拡充を図る中、同事業所は車両製造のマザー工場に位置付ける。まつもとさんともりまささんが製作に携わる新幹線の台枠は、板厚3mm~12mmのアルミを用いた縦25m×横3mに及ぶ溶接構造物である。アルミ中板の基本級と専門級(立向)の資格を持つまつもとさんは終日、本溶接に携わり、アルミ薄板基本級のもりまささんは主にひずみ取りや仕上げを担当する。

台枠組の組長は、二人について「まつもとは順調に技量が伸びている。今年は軽金属溶接協会主催の全国軽金属溶接技術競技会に出場させる予定である。仕事に関しては、指導員のもとよく頑張っている」「もりまさは溶接の経験は少ないものの、着実に技量を上げている。清掃やスパッタ取りなどで垣間見える気配りは職場に好影響を与えている」と評する。

まつもとさんは「競技会に出場して、いい成績を残したい。また、一人でも仕事をまかせてもらえるよう溶接技能を一層高めたい」。もりまささんは「溶接の魅力を知った『溶接女子』を増やすこと。数日前、当事業所の女性に『溶接は面白いよ』と話したところ『やってみたい』と初めて前向きな回答を得た。溶接の面白さは体験しなければ分からない。一緒に仕事ができたらもっと楽しい」とそれぞれ目標を語る。

まつもとさんの溶接風景
もりまささんの溶接風景