エイチワン(埼玉県さいたま市、金田敦社長)は創業より80年以上、溶接技術・プレス技術を生かして、自動車の主にフレーム部分を製造し、日本のものづくりに貢献してきた。強みは設計段階から納品まで自社一括で担当できることと、設計段階から自動車メーカーと協業していることだ。協働で開発しているため、自動車メーカーの方針を早い段階で吸い上げて、求められるものを早期に製造ラインに反映することができる。

同社の三重県亀山市にある敷地面積約5万600平方㍍の亀山製造所の溶接製造ラインでは、約300人の従業員が勤務しており、約400基の溶接ロボットを駆使して自動車ボデーの製造にあたっている。変化を続けるモビリティ産業で必要とされ続けるために、同社では「2030年ビジョン」を策定。収益力・競争力・人材開発の強化と事業領域の拡大を図り、顧客の期待を超える価値の創出に取り組むとしており、亀山工場でも特に人材開発に注力している。

人材開発の一例として、亀山製作所の溶接ラインでは、女性技能者の活躍が目覚ましい。具体的には2018年、19年、20年に女性技能者が入社し、各々が担当部署で頭角を現しているという。18年入社のにしむらさん、19年入社のいとうさん、20年入社のふじいさんを取材した。


にしむらさん:入社4年目

当社には私が所属する「欠怠(けったい)チーム」がある。このチームの作業は、決められた担当部署を持たずに、人手が不足している製造工程にくわわり、ヘルプ要員として手助けしていくというものだ。現在チームには、班長が4人、各種リーダーが4人、その他私を含めた6人で構成されている。

主な業務はヘルプ要員と、ロボットなどのトラブル・故障に対応することだ。当社の製造ラインは、溶接を含めたロボット計400基程度が稼働し続けることで、自動車部品を製造している。ロボットは一度スイッチを押したら終わりではなく、常に正常に動き続けるためには、人の手で細かなメンテナンス・修復作業などが欠かせない。徐々に一人で対応できることも増えてきたが、最終的にはロボットの修理を一人で担当できる技能者を目指している。

溶接のラインは、板材から各種部品を作り、それら部品を溶接して自動車フレームにしていく。作業の難所としては、工程が進めば進むほど構造物の重量が上がっていくことだ。ジグにセットする部品重量は最終的には10㌔程度になり、頭では理解できていても、持ち上げるのは体力を使う。これから製造業を目指す人には、「やりがいのある仕事である一方、ある程度は力仕事だ」と伝えたい。

当社に入社した決め手は、大人数が協力して共通のゴールを目指す「チームワーク」が必要な作業内容に魅力を感じたからだ。学生の頃からチームで動くことにやりがいを感じており、部活動ではソフトボール部でセカンドを守備してきた。守備と中継の要となるセカンドは10人での協力だが、溶接ラインは300人の協力だ。当社でも欠怠チームは、スムーズな事業運営の要となる仕事だと思っているため、今後も全力で取り組んでいきたい。


にしむらさん

曲げ試験機に鋼板をセットするにしむらさん

にしむらさんの休日の1コマ

いとうさん:入社3年目

私が当社の溶接ラインで担当しているのは、検査業務と熟練オペレーターのフォローなどだ。オペレーターのフォローは50品目以上ある材料・工具の名前が飛び交う中で、瞬時に情報を精査しなければいけないため、都度考えている時間はない。反射的・感覚的に作業にあたるようになるまで時間がかかったが、把握できる内容が増えるほど、やりがいも増えていくと感じている。

検査業務では、特にスポット溶接部のチェックに目を光らせている。1時間で100台近く流れてくる自動車ボデーの部品が、定められた回数を高精度にスポット溶接できているのかを検査するのは時間との勝負だ。よく耳にする「考えるな、感じろ」という言葉は、自動車部品の製造ラインにも当てはまる。少しずつ任される仕事も増えてきたため、将来的には班長を目指している。

製造業を選んだのは、「理屈より感覚的で覚える業種」という印象を持っていたため、私には合っていると考えたからだ。友人の多くが事務職や接客業などで就職先を探す中、工場見学時に、当社の持つ「職人気質と先端技術が融合している」雰囲気に心が踊り、入社を決めた。友人からは「危険じゃないのか」「男性ばかりじゃないのか」「体力面で不安はないか」と聞かれるが、世間的なイメージよりも当社は機械化が進んでおり、女性技能者も働きやすい。

休日は津市に出てカフェ巡りをしている。カフェはもちろん「映え」重視だ。製造業は映えないという声も聞こえてくるが、当社工場のように視界の端から端までロボットが稼働している様子は圧巻だ。実際に製造業に従事してみて、世間的な印象と実際の現場作業にギャップがあることを知った。これから溶接士や製造業を目指す人には、魅力的な仕事だから安心して飛び込んで来て欲しいと伝えたい。


いとうさん

ロボットの操作設定を行ういとうさん

いとうさんの休日の1コマ

ふじいさん:入社2年目

柔道を続けて15年、主将としてチームを引っ張ってきたため体力には自信がある。得意技は一本背負いで、自分よりも大型の選手と渡りあってきた経験から、大型構造物であっても持ち運びできると考えていた。

自信のある体力を生かせるのは製造業だろうと考えていたため、通学していた高校の就職説明会に出展していた当社に興味を持った。現在は、ロボットが溶接などの加工を行う前段階で、部品をジグにセットする作業を担当しており、持ち前の体力を生かして働けていると思っている。また、工場見学の時に、同じ高校から当社に就職していた西村さんが、多くの男性技能者と肩を並べて仕事をしている姿を見て、「こんな風に働きたい」と目標にしている。

体力的には問題ないが、入社してから驚いたのは「手数」だ。当社のようなライン作業では、次から次へと部品が出てくるため、同じ速度で対応し続けなければならない。例えば類似部品であっても高張力鋼(ハイテン)材と汎用鋼といった材質の違いや、板厚の違いで、部品の配置方法は異なるため、手を早く動かすとともに、注意深く対応できるようになるのに時間がかかった。

当社だけでも大人数で作業にあたることにくわえ、納品した部品を自動車メーカーが最終製品に加工するため、作業の遅れは社内外の全作業者に影響を及ぼしてしまう。入社して2年目であっても、責任感を持って、担当できる仕事の幅を増やしていきたい。

当社で働きだして嬉しかったのは家族が喜んでいることだ。幼少期に弟と一緒になってブロック遊びに夢中になっていたことを知っているため、家族は「製造業は天職だ」と喜んでくれる。最近、休みの日には家族と焼肉を食べに行くことが多く、私が奢ることもあり、「好きな仕事で稼いだお金と家族で夕飯を食べること」ができるようになったことを嬉しく思っている。


ふじいさん

ジグに鋼材をセットするふじいさん

ふじいさんの休日の1コマ